木の葉がゆれる。 樹齢200年を越える手つかずの天然林に真っすぐ天に伸びる木曽ヒノキの林。ブナ、サワラ、ブナ、トチノキなど広葉樹と針葉樹が混生した木曽の御用林として、「木曽ヒノキ1本、首1つ」と言われ、大切にされてきたうっそうとした森に鳥のさえずりが聞こえてくる。 太古の姿をとどめる森の木もれ日が差し込んだ沢筋の水は、長野、岐阜、愛知、三重四県、全長229Mの木曽川の源流となり、支流の水となって太平洋に流れていく。 水木沢は、木祖村と木曽町の境あたりから流れ出し、笹川に流れ込む2.5kmの小さな流れである。自然倒木は、苔むし、森林の清流に同化していく。山仕事の人の腰の熊よけ鈴が源流の沢にこだまする。 ここちよい風が吹きわたるようになると熊やカモシカが餌を求めて山を歩きまわる季節だ。熊は木の空洞にかけられた蜜蜂の巣をかぎ出し、鋭いつめで取り出し、蜜蜂の幼虫や甘い蜜を食べる。又熊は「ほだ」とよばれる樹木の切り株の腐ったところや土のなかに巣くっている赤蟻を食べる。 カモシカは、鹿にまぎらわしい名称がついているが、野生の牛類に属する日本特産の動物で、現在では天然記念物に指定され、捕獲してはならないことになっている。牡も牝も2本の角を持っていて、木質のかたい木の幹にこすりつけて角を磨くのである。 昔、猟師は動物を捕獲することがなりわいでありながら野生動物に深い愛情をもち、生態観察についても熱意を持って暮らしていた。動物の生態を無視しては、猟師の仕事は成り立たなかったからだ。 しかし今日では、野生動物と共存することがむつかしくなってきた。熊やカモシカの害が人里近い村にまで下りてきて、樹木への被害が年々増えてきている。 ふと見上げる空に、横一文字の虹がかかった。「還水平アーク」といわれる珍しい虹だ。薄いすじ雲の氷の粒に大陽光が屈折したもので、淡く、徐々に空にのみこまれていった。
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