紫の雲がたなびいていると見まごうほどの「どんど花」と呼ばれる花菖蒲の群生であった。
斎宮(イツキノミヤ)は、飛鳥時代の天武天皇の頃から、後醍醐天皇の南北朝時代まで約660年間、64名の斎王が代々の天皇毎に伊勢に派遣された[斎王」(未婚の内親王)の宮殿と役所である。東西2キロ,南北700メートルの137ヘクタールの規模を持っている。
斎王は、天皇の名代として神に仕える身のため、占いで決められた。斎王に任命されると、宮中の初斎院と都の郊外にある野宮で精進潔斎し、三年後の秋、伊勢の斎宮へ5泊6日で群行した。
斎王は神聖無垢な少女が条件で、都を離れてわびしい宿命の宮廷生活が営まれていたと想像することができる。
「昔、男ありけり......」で始まる「伊勢物語」に
----斎王が在原業平に送った歌
君や来し 我や行きけむおもほへず 夢かうつつか 寝てかさめてか
----在原業平の返歌
かきくらす 心の闇にまどいにき 夢うつつとは こよひ定めよ
と、斎王と狩の使いと、はかない恋物語が描かれている。
斎宮寮と呼ばれるところには,寮頭以下100余名の官人と600人ほどの従事者が生活し、斎王には70人以上の女官が仕え、壮大華麗な威容を誇るものであったが、日本史上に記録されることもなく「幻の宮」として語り継がれてきただけである。
斎王の森は霊地である。このような環境の中で、女官達と、浦々で集めた貝合わせや、歌を詠んで徒然をなぐさめていたであろう斎王の日常を思うとき、杉木立を鳴らして過ぎる風の音が、深く胸につきささった。
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